
ペンタブレット事例
2005年、米沢市立米沢第三中学校に赴任したばかりの高橋雅之先生が担当したのが3年生の選択授業の美術。生徒たちは美術、音楽、技術、体育の中から好きな授業を選択できます。この年、美術を選択したのは男女あわせて25名。
「選択した子がみんな絵を描くのが好きだというわけではありません」と高橋先生。
「美術でパソコンを使う」という高橋先生の話に興味を覚え、この授業を選択した生徒も多いと言います。

米沢市立米沢第三中学校 高橋雅之先生
パソコンを使う美術の授業は、ペンタブレットとAdobeのPhotoshopを使って絵を描くことから始まります。生徒たちはほかの授業でコンピュータを使っていますが、Photoshopは初めてです。
「最初は何を描いていいのか悩んでいました。絵が苦手な男子の中には、棒だけの骨のような人間を描いてしまう子もいました」と高橋先生は苦笑します。
しかし、大人に比べ、最近の子どもたちの順応はとても早い。子どもたちは、すぐに動物や人、アニメのキャラクターを描けるようになります。
下絵を描かず、直接Photoshopで描くのが高橋流です。それもペンタブレットの上に画用紙を置いて、その上から描くのが良いと言います。
「このほうが『描く』という感覚があるんです。プラスチックの上にプラスチックで描くのは、描いている感じがしません。人間には質感が必要なんです」と高橋先生は強調します。
実は、ペンとタブレットの間では、微弱電波を使って座標や筆圧の情報をやりとりしており、これによって絵を描くことができます。この微弱電波は、ペンとタブレットの間に5mmの高さがあっても、情報のやりとりが可能です。そのため、ペンタブレットの上に画用紙を敷いていても絵を描くことができ、『描く』という質感を大切にできるのです。
Photoshopに慣れてきたところで、いよいよアニメーションGIFの作成です。
アニメーションGIFとは、パソコン上で動かす「パラパラ漫画」のようなものです。複数のイラストを連続して表示することにより、イラストが動くように見せることができます。
Photoshopでは、このアニメーションGIFを簡単に作成できます。まず、レイヤーという用紙に絵を描きます。1枚だけでなく、少しずつ形の違う絵を複数のレイヤーに描いていきます。
たとえば、1枚目のレイヤーには両目を開けたネコ、2枚目のレイヤーには右目を閉じたネコ、3枚目のレイヤーにはまた両目を開けたネコ、4枚目のレイヤーには今度は左目を閉じたネコという具合です。
Photoshopでは、レイヤーの1枚1枚がそれぞれアニメーションの1コマ(フレーム)になります。各コマの表示時間を0.1〜0.5秒単位で指定し、順番に表示させると、ネコが右目でウィンクしたり、左目でウィンクしたりするアニメーションGIFが出来上がるというわけです。

アニメーションGIFのしくみ
「レイヤーの使い方やアニメーションGIFのコツをつかめた子は早いですよ。10コマ程度のものなら2時間で作ります。100コマも作ってしまった子もいるんですよ」
現代美術を専攻し、自身もコンピュータを駆使して作品を作るという高橋先生も100コマにはずいぶん驚いた様子でした。
さらに高橋先生を驚かせたのは、
「『これ、わたし欲しい』って、ペンタブレットを買ってしまった子もいるんですよ」
その女の子は絵を描くのが好きで、特に人やキャラクターをリアルに描くのが大好きなのだとか。リアリティを追求する彼女には、細かいところまで自在に描けるペンタブレットがピッタリだったのでしょう。
テーマを与えずに自由に作った作品は、ストーリー性のあるものとないものの2つに分かれると高橋先生は言います。
ストーリー性のあるものとは、たとえば落ちてきたボールを打つと、それが壁に当たって跳ね返ってきて、自分にぶつかる……といったように、説明的な一連の流れがある作品のこと。作品1、2、3のように、ストーリー性のある作品では、人や動物など、実際の事物を描くことが多いようです。
いっぽうストーリー性のないものとは、絵画にたとえるなら抽象画のようなもの。作品4、5のように、美しい色や模様がおもしろい動きを見せながら、感覚に訴えてくるものが多いそうです。
わずか数秒の作品ですが、どの作品にも、その子のキャラクターやパーソナリティみたいなものが「バリバリ出ますよ」と高橋先生は断言します。
「作品には感覚的なものがでますよ。たとえば、色一つにしたってその人が選ぶ色にはその人の感覚が出ます。パッと選ぶ子と、『これちがう』『これもちがう』と妥協しないで色を選ぶ子とはやっぱり違います」

作品1

作品2

作品3

作品4

作品5
アニメーションGIFは、Photoshop以外でも作ることができます。Photoshopを使う理由について、高橋先生は、「Photoshopは、ほかのグラフィックソフトよりもブラシの種類が豊富でいろいろなタッチで描くことができます。フィルタの種類が多いのもいいですね」と話します。
フィルタとは、水彩画やモザイクのようなアレンジをする機能のこと。下図の絵も実は花の写真にパステル画風のアレンジを施したものなのです。
「これは人間の手作業の範囲を超えています。同じことをやろうとしたら、とんでもなく時間がかかってしまう。でも、Photoshopの機能を使うと簡単にできます」 「機械的な処理と人間の感覚と手作業とを組み合わせると、もっとおもしろくなる」と高橋先生はここまで一気に話し、「けれど、」と続けます。
「ペンタブレットもPhotoshopも結局は道具。良い感覚がなければ良い作品にはなりません。感性を磨かないと、道具は使えないんです」

Photoshopのブラシの種類

Photoshopのフィルタを使って、花の写真をパステル画風にアレンジしました。
右側のパネルでは、さらに細かい設定が可能です。
最後に、今後の授業プランについて高橋先生に聞きました。
「ピンホールカメラで撮った画像をPhotoshopで反転し、焼き込みしてみたいと思うんです」
「生徒たちは、カメラで撮影したフィルムを現像・プリントするといつも同じ写真ができると思っていますが、実はある色を濃くしたり薄くしたりすると、同じフィルムからでも違う写真を作ることができるんです。手作業だと、機材が高いし、薬品も取り扱うことになるから学校では無理ですが、Photoshopならばできます。何回もやり直しができますしね」
「『画像を作り上げていくおもしろさ』っていうのかな。そういうのを子どもたちにも味わってほしいんです」
教師生活10年目の高橋先生のチャレンジはまだまだ続きます。
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